この職人さんは2014年で御歳80歳で、昭和24年(西暦1949年)からこの仕事に入り、まさに昭和20年代にリアルタイムに作っていらっしゃった方です。
まさかのキャリア65年。
相談の結果、我が家で補修不能・観賞用となっていた古い鞄からわざわざ部品取りして、作っていただくことになりました。
こちらが部品取りした鞄(昭和20年代後半)
昭和20年代(西暦1945~54年)といっても鞄の様式の移り変わりがあるそうで、いろいろ教えていただきました。
今回は、昭和20年代後期の様式を基準に作っていただきました。
昭和20年代の後半というと、西暦1950~54年。
どうやって欧米の情報を得ていたのか、日本の鞄もまさにミッド・センチュリー的になっていて、昭和20年代前半=西暦1940年代後半に比べると、意匠がシンプルになっています。
職人さんによると、昭和20年代前半様式のほうが手がかかっているとのことで、それに比べると後半様式のほうが「簡略化」されているとも言えるようですが、むしろそのほうが無駄な意匠がそぎ落とされて、今日に使いやすいように感じています。
こちらはオリジナルの昭和20年代後半と思しき鞄ですが、まさに1940~50年代のアメリカ靴のステッチのように、白糸が使われています。
(アメリカ靴のそれと同じように、クリームを塗るときに気を遣います・・・。)
ただ、この時代の日本の鞄が白糸ばかりというこわけではなく、茶色系統の糸も多く見ます。
昭和30年代以降になると、革については、タンニンなめしが減りクロームなめしが増えた関係か、黒色の鞄が増え、錠前も、真鍮(?)ではなくニッケルのものが増えていったようです。
同時に作り方もずいぶん変化します。
個人の好みでいうと、昭和30年代以降のスタイルには触手が動かず、昭和20年代後半のものが、今の自分にとって、最も好きだったわけです。
昭和20年代当時にリアルタイムで作っていた職人さんに、その様式で作っていただけるラスト・チャンスと思い(典型的な自分への言い訳)、製作をお願いしました。
本当にいろいろなことを教えていただいたのですが、いくつか紹介します。
金具などのパーツ、型抜きするための金型など、ほとんどのものは「寸」を基準に作られていたそうです。
この職人さんも学校ではセンチだったそうですが、修行先は寸だったとのことで、もっぱら寸でお話されるので、私としては長さがぱっと浮かばないときが多々ありました(笑)。
もちろんこの鞄も「寸」が基準です。
万双さんのブリーフケースのような、革積み上げのもち手や、丸型の錠前を写真で見ていただいたのですが、それらはいずれも、ブリーフケースよりもダレスバッグなどで使われていたものとのことで却下になりました。
それが世界的な傾向だったのか日本限定なのかは分かりません・・・。
また、近年の学生がやっている、リュックサック型のかばんを片方だけ肩にかけるスタイルは、だらしなく見えるそうです。
職人さんは、当時を思い出して懐かしい気持ちになりながら作ったと言って下さいました。
お元気で末永くお仕事を続けていただきたいものです。