2014年8月30日土曜日

昭和20年代様式の鞄




近所の職人さんに、昭和20年代の様式で鞄を作っていただきました。

この職人さんは2014年で御歳80歳で、昭和24年(西暦1949年)からこの仕事に入り、まさに昭和20年代にリアルタイムに作っていらっしゃった方です。
まさかのキャリア65年。

今回の注文にあたり難航したのが部品の調達で、有名な錠前メーカーや問屋が相次いで廃業したとのことで、なかなか入手できませんでした。
相談の結果、我が家で補修不能・観賞用となっていた古い鞄からわざわざ部品取りして、作っていただくことになりました。

こちらが部品取りした鞄(昭和20年代後半)


昭和20年代(西暦1945~54年)といっても鞄の様式の移り変わりがあるそうで、いろいろ教えていただきました。

今回は、昭和20年代後期の様式を基準に作っていただきました。

昭和20年代の後半というと、西暦1950~54年。
どうやって欧米の情報を得ていたのか、日本の鞄もまさにミッド・センチュリー的になっていて、昭和20年代前半=西暦1940年代後半に比べると、意匠がシンプルになっています。

職人さんによると、昭和20年代前半様式のほうが手がかかっているとのことで、それに比べると後半様式のほうが「簡略化」されているとも言えるようですが、むしろそのほうが無駄な意匠がそぎ落とされて、今日に使いやすいように感じています。



こちらはオリジナルの昭和20年代後半と思しき鞄ですが、まさに1940~50年代のアメリカ靴のステッチのように、白糸が使われています。
(アメリカ靴のそれと同じように、クリームを塗るときに気を遣います・・・。)
ただ、この時代の日本の鞄が白糸ばかりというこわけではなく、茶色系統の糸も多く見ます。


昭和30年代以降になると、革については、タンニンなめしが減りクロームなめしが増えた関係か、黒色の鞄が増え、錠前も、真鍮(?)ではなくニッケルのものが増えていったようです。
同時に作り方もずいぶん変化します。

個人の好みでいうと、昭和30年代以降のスタイルには触手が動かず、昭和20年代後半のものが、今の自分にとって、最も好きだったわけです。

昭和20年代当時にリアルタイムで作っていた職人さんに、その様式で作っていただけるラスト・チャンスと思い(典型的な自分への言い訳)、製作をお願いしました。


本当にいろいろなことを教えていただいたのですが、いくつか紹介します。

金具などのパーツ、型抜きするための金型など、ほとんどのものは「寸」を基準に作られていたそうです。
この職人さんも学校ではセンチだったそうですが、修行先は寸だったとのことで、もっぱら寸でお話されるので、私としては長さがぱっと浮かばないときが多々ありました(笑)。
もちろんこの鞄も「寸」が基準です。

万双さんのブリーフケースのような、革積み上げのもち手や、丸型の錠前を写真で見ていただいたのですが、それらはいずれも、ブリーフケースよりもダレスバッグなどで使われていたものとのことで却下になりました。
それが世界的な傾向だったのか日本限定なのかは分かりません・・・。

また、近年の学生がやっている、リュックサック型のかばんを片方だけ肩にかけるスタイルは、だらしなく見えるそうです。


職人さんは、当時を思い出して懐かしい気持ちになりながら作ったと言って下さいました。
お元気で末永くお仕事を続けていただきたいものです。

2014年8月16日土曜日

60年代前半ごろのJohnston & Murphy?


忙しくてなかなか更新できません・・・
この靴は、アメリカの古靴の世界にはまるきっかけになった一足で、偶然通りかかった古着屋さんで見つけました。
お店の方によると、おそらく1960年代前半とのことです。

そのときお店にあった他の靴たちは70~90年代ごろのもので、この靴だけがより古かったのでした。
当時は知識がほとんど無く、60年代、70年代、80年代でアメリカ革靴界に何が起きていて、品質にどういう傾向があるかなど、知る由もなかったのですが、やはり自然とこの靴を選んでいました。


特徴的なのはソックシートのロゴで、不勉強ながら、ほかでは見たことがないものです。
(どなたか情報を・・・)

ライニングにはつま先側に布を使ったもので、60年代初期ぐらいなのか、インソールに独特のストイックな雰囲気が漂っています。
この質素な雰囲気が好きなのです。


コバの目付けを見ると、60年代あたりのアリストクラフトに比べると簡略化されているので、安いラインのほうなのでしょうか。

パイピングは痛んでおりますが、その横のステッチは、すごい至近距離で二重になっております。

革は「肉厚過ぎないのに丈夫」で、他の靴ではなかなか無い不思議な質感です。



Cat's Pawのヒール。前回のAristocraftよりも古いものですね。

UチップVチップの靴にしばしば見られるように、トゥが少し跳ね上がっており、形に躍動感があります。
先端まで細くなりすぎず、かつぽってりし過ぎず、絶妙のバランスです。
履いてみても立体感を感じます。

経験では、多くの人がすぐに反応するのは前回のアリストクラフトの方なのですが、この靴のストイックさと全体のバランスには、ため息が出るものがあります。
アメリカの古靴にはまるきっかけになった一足でもあり、思い入れがあります。

2014年7月30日水曜日

Johnston & Murphy “Aristcraft”




1960年代後半~70年代前半ごろのものでしょうか。

お店の方が「Aristcraftの鳩目は珍しい、今回の入荷の目玉だ」とお勧めして下さり、購入しました。
サドルではなく、普通のウイングチップでという意味だと思いますが、たしかにその後もなかなか見ません。
貴重なものを勧めていただいたことに感謝しています。
ちなみに、ここまでこのブログに登場している靴は全て、インターネットではなく店頭で購入した靴です\(^o^)/

肉厚でありながらしっとりした良質なシボ革で、鳩目、内羽根のウイングチップ、もしかしたらステファノ・ベーメルあたりにも影響を与えたのかなと思うような意匠です。

ライニングは革で中敷には“Made in USA”入りのロゴ

比較的最近のCat's Paw。

J&Mはこれより後の時代になると急激に作りも革質も落ちてゆきますが、この靴は「大統領靴」として知られるトップ・ブランドの面目を保っていると思います。

ヴィンテージのJ&Mは何足か購入しましたが、他のメーカーに比べて、芯ががっちりしており、構築的で、アメリカやカナダの靴としては固めの履き味です。
Netlettonなどもそういう傾向があると思いますが、欧州志向、英国志向といえるかもしれません。



2014年7月12日土曜日

Mansfieldのメッシュ

“Mansfield”という聞きなれないブランドになっていますが、お店の方によるとBostonianだそうで、1950年代のものだそうです。

この1956年の広告にも同じようなものがあります。


実際に履き比べてみると、たしかに普通の革靴よりも格段に涼しくて、暑い日には助かります。
ローファーやホワイトバックスとはまた違ったカジュアルな感じ、リラックス感がありますね。

ちょうど“SUPER 8 SHOES”さんのブログでも、メッシュのNettletonとNunn-Bushが取り上げられていましたが(http://ameblo.jp/super8shoes/entry-11891013504.html)、特にNettletonのアッパーはかなり手間をかけていそうですね。

このMansfieldは、アッパーに関してはそこまで念入りではないのですが、コバの仕上げもなかなかで、アウトソールの出し縫いが、この時代ならではという感じの細かさ。





この年代のものにしては、まだまだ革の乾燥も進んでおらず、重宝しております。

2014年7月3日木曜日

Mchaleのストレート・チップ


カナダのメーカーといえば、Dack's、Hartt、そしてこちらのMchaleが知られていますが、カントリー色の強いものが多いDack'sやHarttに比べて、Mchaleは華奢で洗練されたものが多いと感じます。

単にまだ良いものしか入ってきていないだけかもしれませんが、カナダのものは革の質が素晴らしいものが多いですね。

Mchaleはこちらのサイト
http://ameblo.jp/permanent-mens/entry-11145770245.html
によると、
The McHale shoeはJohn McHaleとFrancis Stuart Scottの二人によって1909年、ロンドンとカナダのオンタリオで創業されました。特にカナダではアメリカのシューメーカーと競争できる数少ないシューメーカーだったようです。
北アメリカの伝統的な木型を使って靴を生産していたMcHaleは当時、イギリスのJohn Lobbとも並ぶメーカーと言われていたそうです。
オンタリオという土地柄かシカゴやデトロイトの靴屋にも卸していたようですね。
とのことです。

昔のインソールを見ると、“LONDON.CANADA”と書いてあり、お店の人にもよると両地で生産されていた、またOEMでアメリカ製造もあったかもしれない、とのこと。

なので、正確にどこで作られた靴かはいまのところ分からないのですが、6対のアイレット、小さな「本当の」キャップ・トゥ、そして履いてみると返りが非常に柔らかく、北米的であると感じます。

先日、出先でストレートチップが必要なことがあり、この靴を空港の手荷物検査に持ち込んだところ、長方形のシャンクっぽいものが映っていたのでまじまじ見てしまったのですが(ちょっと不審)、あの映り方は金属ということなのだと思いますが、どのようにしてこの返りの柔らかさを実現しているのでしょう。

お店の方によると、この靴はおそらく60年代ぐらいのものではないかということでした。

ソールが薄くて7mm程度、ライニングは綿布。
中敷の革はしっとりした質感の良いものです。

何よりも、アメリカ的なディテールとエレガンスを兼ね備えた絶妙なバランス、そして履き味の柔らかさに感動します。
割と細長いのに嫌らしいロングノーズのようには全くならず、ボールジョイントの外周にも余裕があります。

この靴がとても良かったので、古靴店で何足か試し履きさせていただいたのですが、サイズが同じでも各々ラストの形がかなり異なっており(時代やモデルで?)、残念ながら同じような感覚は得られませんでした。
その意味でもこの靴は、自分にとって宝物のような一足であると思います。





2014年6月26日木曜日

二つのフローシャイム・インペリアル



上から撮ると、少し角度を変えただけで全然違う形になってしまうので、この写真はご参考程度ですが、履いてみると、同サイズ表記にも関わらず黒のほうがボールジョイント部が少し細いのは間違いなくて、もしかしたら黒のほうがわずかに内振りになっているかもしれません。

刻印は、茶靴が黒で、黒靴が青です。
黒靴は1978年かなと思いますが、茶靴はもっと古そうなのですが、この二桁が見当たらず、年代不明となっています。
押し忘れてしまったのか、押していない時代のものだったのか。

ライナーは黒靴のほうが黄味がかって、皺が寄っています・・・
しかし柔らかくて当たりの良い革です。

ベロ裏なのですが、茶靴は余白のようなものがあります。
さらに古い時代のアメリカ靴にはふかふかの綿のようなものが当ててあるものがありますが、その名残なのでしょうか?
黒靴のほうは、余白のようなものが基本的に無く、こちらのほうがベロ裏の当たりは気持ち良いです。


コバを見ると、茶靴のほうが圧倒的に目付けが綺麗です。
また、パーフォレーションの穴が大きい。
Johnston & Murphyも、60年代ごろのものよりも80年代のもののほうが穴が小さいようなので、だんだん小さくなっていったのでしょうか?


こちらでも、穴飾りの大きさの違いや、コバのクオリティの差が、よく分かると思います。
履き口から一つ目のステッチと二つ目のステッチの間隔が、茶靴のほうが大きくなっています。


ライニングの糸の色が、茶靴は白(?)、黒靴は定番の緑となっています。
茶靴で緑糸も頻繁に見ますが、古い時代には白が見られるように思います。

またFlorsheim Imperialの小窓は、それぞれ右足のみにあるのですが、茶靴では外側、黒靴では内側にありました。

品番やサイズの刻印は、茶靴は左右内側に、黒靴は左足内側と右足外側にありました。

また、ライニング縫合部のダブルステッチの間隔が違っています。



つま先側のライニングは綿ではなく、革ですが、黒靴のほうは通気孔が見えます。
ベロ裏は黒靴のほうがふかふかしていて当たりが柔らかいのがお分かりいただけるかと。


これは個人的に注目しているのですが、ストームウェルトが、茶靴のほうは革を折り返しているように見えますが、黒靴のほうは切りっぱなしになっているように見えます。
踵。目付けの綺麗さが圧倒的に茶靴のほうが上ですね。
でも黒靴も良い靴なんですよ。

裏です。茶靴(左)は、踵のゴムを交換してしまい、つま先も補修していただきました。

N.O.S. w/box (旧お気に入りモノ図鑑)」のeuropeanblendさんの分類では「釘穴ありゴムヒール」だった・・・ような気がします。
記録しておけばよかったと少し後悔しています。

黒靴のほうはオリジナルのVクリートだと思いますが、ちょっと気の抜けた釘打ちが良いですね。

ウェルトのステッチが、茶靴のほうが黒になっていて、黒靴はよく見る白です。


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こうして比べてみると、作りに関しては確かにより古いと思われる茶靴(60年代前半ごろでしょうか?)のほうが至る所で丁寧なんですが、黒靴も決して悪くない。

茶と黒ではなめし方が違うので一概に言えませんが、黒のほうがモチモチしっとりしているぐらいで、アッパーは決して負けていません。
そしてタン裏が黒靴はふんわりした影響か、履き心地も勝るとも劣らない。
どちらも分厚いソールにもかかわらず、返りが非常に柔らかい。

また、意外と、実際に履いてみると、コバが手抜きで、飾り穴も小さく控え目な黒靴のほうが、カジュアルに合わせやすい場面もあると思いました。
どこまで狙ってやっているのか分かりませんが・・・。

1970年代80年代は、革靴がスニーカーに押された時代でもありますが、服装全体がカジュアル化した時代でもあり、この黒靴は、そういう時代の変化に対応しつつ、一番大切な部分は守っているようなところがあると思います。

茶靴のソックシートは残念ながらなくなってしまったようで、それならばUnion Madeのスタンプもあるはずかと思いましたが、擦れて消えてしまったのかも知れません。
謎の99だか66だかという文字がくっきりスタンプされています。